日本国内では、多くの業界が人手不足の問題に直面しています。
建物の掃除を行うビルクリーニング業も、人材確保が困難な分野のひとつです。掃除ロボットを導入する企業は増加していますが、国が定めたガイドラインによる雇用促進に取り組んでもなお、人材不足の状況は解消されていません。
現在では、外国人労働者の受け入れが拡大しています。
外国人労働者のなかでも特に高いスキルを有する特定技能外国人は、即戦力である点がメリットです。ビルクリーニング業の特定技能外国人は、衛生的環境の保護・美観の維持業務を目的とし、汚れの種類に応じた掃除方法を適切に使いこなす技術をもっています。
本記事では、ビルクリーニング分野の概要や特定技能外国人を詳しく解説するので、参考にしてください。
まずはビルクリーニングの分野が人材難に陥っている実態を詳しくみていきましょう。
ビルクリーニング業は、人材不足が特に深刻である分野のひとつです。平成27年国勢調査によると、ビル・建物清掃に従事する従業員のうち、約37%を65歳以上の高齢者が占め、労働者の高齢化も懸念されています。
労働者の不足や高齢化問題を解消するべく、在留資格「特定技能」の受け入れ先としてビルクリーニング分野が対象に指定されました。しかし、出入国在留管理庁のデータによると令和6年4月時点での受け入れ数は4,298人であり、低い水準に留まっているのが現状です。
国は「ビルメンテナンス業高齢者雇用推進ガイドライン」や、ビルクリーニング業の賃金引上げに向けた「ビルメンテナンス業務に係る発注関係事務の運用に関するガイドライン」を策定するなど雇用を促進する施策を実施しています。しかし、人材不足問題の解消には至っていません。
出典:厚生労働省「ビルクリーニング分野について」
出典:出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」
本項では特定技能制度を詳しく解説します。
日本で就労するには、就労が可能な在留資格が必要です。在留資格は複数の種類があり、特定技能はそのうちの一種です。
特定技能制度は、人材の確保が特に困難な状況にある特定産業分野で、高度な知識やスキルをもつ外国人材の受け入れを促進するために国によって創設されました。受け入れ側にとっては、即戦力の人材を雇用できる点がメリットです。
特定技能制度で受け入れられる分野は以下のとおりです。
上記分野のうち自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野は、新しく追加されることが政府より発表されました。
特定技能の在留資格は、1号と2号に分類されます。
特定技能1号は、技能および日本語の検定に合格し取得できます。同分野の技能実習を良好に修了し取得する方法も存在します。
1号の在留期間は通算で5年までです。家族の帯同は許可されていません。
また、特定技能1号の受け入れ機関は、適切な支援計画を作成し、計画に基づいたサポートを行わなければならないとされています。
特定技能2号は、1号より高い技術力が必要な検定や実務経験により取得できます。2号は在留期間が無期限となり、要件を満たせば配偶者・子の帯同が許可されます。1号と異なり、2号は受け入れ機関による支援の対象外です。
新しく追加された4分野では、1号のみ受け入れ可能とされています。ただし、元々1号のみだった他分野で2号取得が可能になった例もあるため、政府から発信される最新の情報に注意しておきましょう。
なお、介護分野は移行先として「介護」の在留資格が個別に設定されています。
特定技能のビルクリーニング分野の概要を解説します。
面積や用途などの定義を満たす「特定建築物」の所有者・占有者は、建物の衛生環境を維持・管理しなければいけないと法律で定められています。
ビルクリーニング分野の特定技能外国人は、多数の人が利用する住宅以外の建築物の内部の清掃業務に従事できます。主な業務として想定されている内容は以下のとおりです。
関連業務としては以下の作業が想定されていますが、関連業務の作業を主たる業務として任せてはならないため注意しましょう。
ビルクリーニング分野で特定技能外国人を受け入れる場合、事業者は建築物衛生法で定められた以下のいずれかの登録を受けなければならないとされています。
いずれも、「機械器具その他の設備に関する物的基準」「従事する者の資格に関する人的基準」「作業方法や機械器具の維持管理方法などに関するその他の基準」の全てで定められた要件を満たさない場合、登録を受けられません。
特定技能の資格を取得するための方法を解説します。
ビルクリーニング分野特定技能評価試験と日本語能力検定に合格すると、特定技能の在留資格を取得できます。
ビルクリーニング分野特定技能評価試験では、写真やイラストを用いて判断能力を評価するペーパーテストと、床面・ガラス面・洋式大便器を用具を用いて清掃する作業試験の両方で合格が必要です。
どちらも制限時間が設定されており、超過すると失格です。
日本語能力は「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」でA2レベル、または「日本語能力試験(JLPT)」でN4レベル以上の合格が必要です。いずれも簡単な日常会話ができるレベルが求められます。
ビルクリーニング分野の技能実習2号を良好に修了した外国人は、特定技能の在留資格を取得できます。前項で解説した技能や日本語の検定受験は必要ありません。
技能実習とは、外国人が日本で得た知識や技術を自国に持ち帰って活用するための制度です。開発途上地域への技術移転による国際貢献を目的として国によって創設されました。
現行の技能実習制度は転職が規制されていることから外国人労働者の立場が弱くなりやすく、人権侵害が発生し問題視されています。そのため政府は技能実習制度を廃止し、「育成就労制度」の新設を発表しました。新しい制度では転職制限が緩和されるほか、特定技能への移行もしやすくなります。
特定技能の在留資格を取得する場合、外国人本人が満たすべき基準は以下のとおりです。
技能実習を修了済または検定に合格済の場合でも、要件を満たさない場合は特定技能の資格を取得できません。
出典:出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れる際のポイント」
ビルクリーニング分野で特定技能外国人を受け入れる場合のメリットを解説します。
特定技能外国人は、一定水準以上の知識やスキルを採用前に把握できる点が特徴です。日本語能力が高い外国人も多く、教育効率も高まります。特定技能外国人は、即戦力を要する事業者と相性の良い人材です。
技能実習制度では、技能実習生の受け入れ人数に制限があり、所定の人数までしか雇用できません。また、従事できる業務の内容や就労時間も限定的です。
ビルクリーニング分野の特定技能外国人の場合、受け入れ制限はないため、必要なだけ人材を効率よく確保でき、技能実習と比較して幅広い業務に従事させられます。人手不足が深刻な分野では大きなメリットです。
特定技能1号の在留期間は通算5年です。
また、2号は在留期間が無期限化します。人材の定着は受け入れ側にもメリットです。結果として、採用コストの削減効果も見込めます。
特定技能は、すでに日本に在留している外国人も取得もできるため、取得が見込まれる人材がいれば移行を促してみるのも良いでしょう。
特定技能外国人の受け入れ機関が注意すべきポイントを解説します。
特定技能外国人の受け入れ機関が満たすべき基準は以下のとおりです。
特定技能外国人の受け入れ機関には以下の義務が課されます。
協議会は次項で解説します。
特定技能外国人の受け入れ機関は、各分野の協議会へ入会しなければならないとされています。ビルクリーニング分野では「ビルクリーニング分野特定技能協議会」です。
会員は、必要に応じて会の活動に対する協力を行います。加入に費用はかかりません。
特定技能外国人を受け入れる際は、入会を宣誓する「宣誓書」を地方出入国在留管理局に提出しますが、令和6年6月15日以降は事前の入会が必須になりました。
自己都合による転職が制限される技能実習生と異なり、特定技能外国人は受け入れ先があれば転職が可能です。特に同じ業種・区分で働く場合、検定の再受験は必要ありません。
実際には特定技能外国人の転職例は少ないのが現状ですが、受け入れ機関は、待遇面や各種支援など外国人が定着しやすい職場環境の整備が必要です。
「特定技能」は在留資格の一種であり、受け入れ分野にビルクリーニング業が含まれます。
特定技能の在留資格は受け入れ機関および外国人本人も所定の要件を満たさなければ取得できません。受け入れ機関は建築物清掃業もしくは建築物環境衛生総合管理業の登録が必要です。
ビルクリーニング分野の特定技能外国人は、住宅以外の建築物の内部の清掃業務に従事できます。
受け入れ機関はビルクリーニング分野特定技能協議会への入会のほか、果たすべき義務を遂行しましょう。
Adeccoでは特定技能外国人の紹介サービスを行っています。受け入れ後の支援サポートも可能なので、ぜひご検討ください。