多くの業界で人手不足が深刻化し、外国人労働者の受け入れが急増しています。
外国人労働者の受け入れにともない、外国人労働者問題にお悩みの方も多いのではないでしょうか。
外国人労働者問題は、さまざまな原因から発生します。
本記事では外国人労働者問題の事例をはじめ、企業が外国人労働者問題を解決・防止するメリット、取り組むべき対策も解説します。
厚生労働省による「外国人雇用状況(令和5年10月)」の調査では、外国人労働者の数は2,048,675 人、外国人を雇用する事業所は318,775カ所との結果が出ました。
令和4年10月時点での同調査の結果は労働者数が1,822,725人、事業所数が298,790カ所でした。どちらの数字も10年以上前から右肩上がりの状態が続いており、この1年でも急増している旨がわかります。
同調査結果によると、外国人労働者数の割合は製造業が最も多く全体の27.0%を占めます。次いで建設業が24.1%です。
国別でみるとベトナム人の労働者が1番多く、518,364人でした。2番目に多いのは中国人で397,918人、後にフィリピン人、ネパール人と続きます。
新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のための各種制限は緩和されましたが、円安が進み、外国人労働者にとって日本で就労するメリットが小さくなりつつあります。
外国人労働者の人数が今後も増加し続けるとは限らず、日本の事業主は外国人に選んでもらうための魅力的な労働環境の提供が必要です。
外国人労働者問題と一口に言っても、内容はさまざまなケースが考えられます。
本章では外国人労働者問題を事例別にそれぞれ解説します。
外国人である旨を理由に低賃金で雇用する行為は認められていません。不当に低い賃金での雇用は違法であるにも関わらず、実際には最低賃金以下での労働を強いられているケースが存在します。
賃金の未払いや、不当な解雇も当然に違法です。
最低賃金法や労働基準法は、外国人労働者を含む全ての従業員が対象ですが、外国人労働者の知識不足や弱い立場を利用して、違法な扱いをする事業者もいるのが現状です。
一般的な就労時間を大幅に超過し、過酷な労働環境となっているケースが存在します。
違法な時間外労働は許容されるものではありません。
外国人労働者には労働基準法の知識がない場合もあり、自身の不利益を認識していない場合も考えられます。
外国人労働者は、「永住者」や「日本人の配偶者」などの身分があり就労が制限されていない場合を除いて、就労の範囲・労働時間などの条件が定められています。
「在留資格のない外国人を就労させる」「就労許可のない外国人を就労させる」「定められた範囲外の業務に従事させる」「定められた就労時間を超えて従事させる」は全て違法で、処罰の対象です。
不法滞在者である旨を雇い入れた後に知るケースもあるかもしれません。しかし、不法滞在の事実を知らずに雇い入れた場合であっても、事業者に在留カードの確認をしなかったなどの過失があれば、処罰の対象となってしまいます。
外国人労働者を雇用する際は、在留期間や在留資格、就労制限内容の確認を必ず行いましょう。
外国人労働者が、外国人である事実だけで差別やハラスメントの対象になるケースが存在します。
組織の中だけではなく、外国人に拒否反応を示す地域社会が、外国人労働者にとって生活しづらい環境の要因となる場合もあるでしょう。
人権を侵害する不当な扱いを放置すると、外国人労働者の健康被害や離職につながる恐れがあり、注意が必要です。
外国人労働者が働きやすい職場環境を整えるため、差別や偏見・ハラスメントが認められる場合には早急に是正にあたらなければなりません。
技能実習は在留資格の一種であり、外国人が日本での労働で得た知識や技術を自国に持ち帰り活用するための制度です。
技能実習の在留資格で就労する外国人労働者を、技能実習生と呼びます。
技能実習制度は本来、技術移転での国際貢献が目的です。しかし、本人の希望による転職が原則として認められないため、悪意のある事業者がこのルールを悪用し、技能実習で来日した外国人を単純労働力として劣悪な環境で働かせるケースが存在します。
立場が弱く、法律の知識も乏しい外国人労働者の場合、事業者の言いなりになってしまいます。
上記の問題を解消するため、政府が技能実習に代わる新制度として「育成就労」を検討しているとの発表がありました。
具体的な法改正はまだ先の話ですが、技能実習生問題の原因のひとつである転職制限が緩和され、外国人労働者にとって利用しやすい制度に変更される見込みです。
外国人労働者問題が発生する根本的な原因として、次の理由が挙げられます。
それぞれ詳しく解説します。
外国人労働者を雇用する事業者側の人権尊重意識が低い場合や、労働基準法や安全衛生に関して知る・守る意識が乏しい場合、外国人労働者問題が発生しやすいでしょう。そもそもの法律の知識が不足している可能性も考えられます。
安く雇用できる単純労働力として外国人労働者を受け入れるのではなく、労働者の人権を侵害しない組織づくりが必要です。
人権の尊重は、持続可能な社会を実現するための理念のうちのひとつです。全ての事業者には、正当で責任ある経営が求められます。
外国人労働者の日本語能力には個人差があります。全員が日本語でコミュニケーションが可能とは限りません。読み書きはできても聞き取れない・喋れない労働者もいるでしょう。言語の壁は、現場のトラブルの元です。
意思疎通がスムーズでない場合、教育にも時間がかかり、日本人労働者・外国人労働者双方のストレスを生み出します。
生活習慣の異なる者同士が一緒に働くためには協力し合う意識が必要不可欠ですが、コミュニケーションがうまく図れないと、お互いを理解し歩み寄るのも困難です。
国が違えば生活習慣・文化・価値観などの相違があるのは当然です。
異文化に対する無理解や外国人労働者による日本文化の無理解が、摩擦の原因となる可能性が考えられます。
地域住民の無理解が、外国人労働者の暮らしやすさを阻害する場合もあるでしょう。地域によっては、排他的意識が強く外国人に抵抗を感じる人もいます。
事業主が提供する書面やマニュアル類は、外国人労働者が理解できる言語で作成された内容でなければなりません。対応が不十分な場合は、混乱を招きます。
外国人労働者を雇用する際の法律や手続きの知識が、人事・労務担当者に不足しているケースも考えられます。
日本人の雇用時とは異なる内容の手続きも存在するため、受け入れ側は積極的な情報の収集が必要です。
現場に外国人を受け入れる意識や配慮が不足していれば、外国人労働者にとっては働きづらい環境となってしまいます。
企業が外国人労働者問題を解決・防止するメリットとして以下の3点が挙げられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
少子高齢化が加速するわが国では、今や外国人労働者は日常に欠かせない貴重な労働力です。
国内では人手不足による倒産も増加傾向にあり、多くの業界で労働力の確保は重要な課題として認識されています。
外国人労働者が安心して働ける職場環境を整える取り組みは、優秀な人材を獲得し、人手不足の解消を図る効果が期待できます。
居心地の良い組織を構築し、人材の定着が実現すれば、結果として採用コストの削減にもつながります。
外国人労働者問題を改善・予防し職場環境を整える取り組みは、外国人労働者ばかりでなく組織全体の満足度を向上させ、ひいては企業価値の向上にもつながります。
近年、持続可能な社会の実現に向け人権を尊重する意識が国内外で広まっており、職場でも人権侵害を是正・予防する「責任ある取り組み」が求められています。
外国人労働者から、商品やサービスに関する、異文化ならではの新しいアイデアが出てくる可能性が考えられます。
外国人労働者と円滑にコミュニケーションをとれる環境を活用し、インバウンド事業や海外展開のきっかけとなる場合も考えられ、組織の発展への寄与が期待できます。
職場で外国人労働者問題が認められた場合、事業者は早急に、解消のための措置を取らなければなりません。
また、現時点では確認できない場合であっても油断はできません。外国人労働者を雇用する組織は、リスクヘッジの観点から防止策を検討するべきです。
企業が実施するべき対策として以下の5点が挙げられます。
それぞれの対策を詳しく解説します。
雇用契約書・就業規則・マニュアルなどの書面は、外国人労働者が理解できるよう多言語化や図解化の対応を行いましょう。作業手順などは動画化も検討できます。
特に、安全衛生に関連する内容を理解させる取り組みは重要です。従業員全体の安全を守るためにも優先して取り組みましょう。
また、生活習慣の違いにも可能な限り配慮しましょう。実務だけでなく日本での生活面でもサポートできる体制が整っていれば、外国人労働者も安心して働けます。
役所・銀行・不動産業者との手続きなど、日本での生活に不慣れな外国人労働者が補助を求める場面は多く存在します。ハローワークや自治体による外国人向け公的支援も活用を検討してみてください。
同じ組織で働く人間同士は、お互いに理解し合う意識が大切です。積極的にコミュニケーションを増やしましょう。
通訳の設置、翻訳アプリの導入、外国人労働者への日本語教育などの手段で言語の壁によるトラブルを可能な限り排除します。
コミュニケーションには、「ゆっくり話す」「簡単な言葉を使う」「表情やジェスチャーも交える」など相手に合わせた配慮も必要です。
また、ミーティングや親睦会などを行い交流を深めましょう。
ボランティアやイベントなどで地域の理解を得て、外国人労働者が暮らしやすい環境を目指すのも良いでしょう。
コミュニケーション不全を積極的に改善し、外国人労働者・日本人労働者・地域社会の相互間の理解を深める取り組みが重要です。
雇用形態による賃金の差を是正する「同一労働同一賃金」の考え方は、日本人労働者だけが対象ではありません。
外国人労働者に対しても公平な評価が必要です。
また、年功序列の評価制度ではなく、能力に応じた人事考課を構築すると、優秀な人材が定着する可能性が高まります。
業務や生活面での困り事を相談できる窓口の設置や、定期的なヒアリングの実施で、外国人労働者の労働や暮らしの実態を把握しましょう。
相談しやすい環境を整えておけば、トラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。
また、改善すべき事項を素早く把握し、是正に向けた早急な取り組みが可能になります。
外国人労働者問題は知識や理解の不足により起きる場合もあるため、既存の従業員には、人権尊重・法令順守の意識や異文化の理解度を高める研修を行いましょう。
また、外国人労働者にも、日本文化を理解してもらうための研修を実施します。
全員に一律で同一内容の研修を行うよりも、従業員本人の理解度に応じた内容の設定があれば、より高い効果が期待できます。
円安が進み、外国人労働者にとって日本で働くメリットが小さくなりつつあるのが現状です。
日本の事業者は、働きやすい労働環境を整え、外国人労働者に選ばれる魅力のある職場づくりを実施しなければなりません。
人権尊重・法令順守の意識を高く持ち、積極的にコミュニケーションをとりましょう。外国人労働者・企業・日本人労働者・地域社会、相互間の理解を深める取り組みが必要です。
アデコでは外国人労働者の人材紹介サービスを行っています。人手不足や人材定着にお悩みの場合は、ぜひ活用を検討してみてください。