少子高齢化が進み、建設業や宿泊業、製造業など、多くの業種が慢性的な労働力不足に陥る中、外国人労働者を雇う企業が増加傾向にあります。
外国人労働者の受入れは、人手不足の解消のほか、グローバル化への対応力の向上、企業イメージの向上などさまざまなメリットが挙げられます。
しかし、日本特有の文化や風習、マナーに馴染めない外国人労働者との間にミスコミュニケーションが生まれ、意図せずトラブルに発展するかもしれません。
本記事では、外国人労働者に多いトラブルの事例や原因、解決方法、円滑な雇用のポイントを解説します。
自社の外国人労働者とトラブルを起こさないために、事前によくあるトラブル事例や注意点、対策方法を知っておきたい採用担当者様は、ぜひ参考にしてください。
英会話学校で英語教師として働いていた外国人労働者が、生徒が集まらないことを理由に、契約時に支払うと約束した給与の最低額を下回る金額しか支払われなかった事例です。
外国人労働者とのトラブルの大きな原因として、契約時の「説明不足」が挙げられます。
外国人労働者と雇用契約を結ぶ際には、以下のような項目の詳しい説明が必要です。
日本人なら常識的・感覚的に知っていることでも、外国人労働者には就労に関する全ての項目を書面化してください。
外国人労働者が理解できる言語や、外国人労働者向けモデル労働条件通知書(令和6年3月時点で13ヵ国に対応)などを用いて、外国人労働者が理解できるように説明しましょう。
外国人労働者が工場の退職時に、退職金が支払われなかった事例です。
雇用形態について、労使間での認識のずれが原因です。雇用者側の言い分は、外国人労働者を期間工として雇用していたから、退職金は支払われないというもの。
雇用契約の時点で詳しく説明されていれば、このような事態は避けられたでしょう。
言語の壁、コミュニケーション不足などが理由で、外国人労働者が連絡せずに欠勤や遅刻をしたり、朝礼や朝の清掃に参加しなかったりするケースがあります。
病気などの正当な理由があっても、雇用者に誤解されたり、仲間外れにされたりすることもあります。
外国人労働者にとっては日本語を習得し、日本の独特な文化や習慣に馴染むのは難しいとされています。
外国人労働者も日本の言語や風習に慣れる努力が必要ですが、雇用者側もコミュニケーション不足にならないように注意しなければなりません。
外国人労働者の日本語能力を把握した上で、身振り手振りなどの非言語コミュニケーションも交えて意思疎通を図りましょう。
外国人労働者の失踪や離職に関するトラブルは、技能実習生によく見られます。
技能実習生の失踪件数は、平成25年は3,566人でしたが令和4年は9,006人と、増加傾向にあります。
技能実習制度とは、国際貢献を目的に、開発途上国の外国人を一定期間受入れ、日本の技能や技術・知識をOJT(On the Job Training)で移転する制度です。
参考:出入国在留管理庁:「技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~令和4年)」
技能実習生の失踪や離職の主な原因は、以下の2つです。
外国人が失踪してしまった場合、まずは所在把握の取組みに努めましょう。技能実習の継続が困難になった場合は、外国人技能実習機構へ連絡してください。
技能実習生の失踪等のトラブルを未然に防ぐために、採用面接の際に業務内容や給与の仕組み、控除の理由などをわかりやすく説明し、納得してもらった上で採用する必要があります。
参考:出入国在留管理庁「外国人技能実習生の失踪を発生させないために」
2024年3月15日、政府は「技能実習制度」に代わる「育成就労制度」の創設に向けた、入管法や技能実習法の改正案を閣議決定しました。
目的は、人材確保と特定技能1号水準の技能者の育成を目的とした、より外国人労働者が働きやすい環境作りです。
新制度では、育成就労外国人が同じ職場で1~2年働き、一定水準以上の日本語能力試験の合格などの要件を満たしていれば、同一業務区分内で勤務先を変えられる「本人意向の転籍」を認めます。在留カードとマイナンバーカードの一体化も可能です。
雇用者が外国人を不法就労させた場合の罰則は、5年以下の拘禁刑、または500万円以下の罰金刑に厳罰化されます。
ワーキングホリデービザにより、レストランで働いていた外国人労働者が、採用時には時給 1000 円との約束でしたが、実際は 900 円しか支払われなかった事例があります。
働きはじめて数ヶ月が過ぎた際に、ほかに時給の高い仕事が見つかったため退職を申し出たところ、「退職の手続きは2 週間前までに書面で提出することになっており、守らない場合は、最後の月の給料は 70%にする」と言われ、トラブルになりました。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「外国人労働者の雇用をめぐる相談事例」
雇用者は 「採用面接の際に退職時のルールを伝えており、問題や不具合はなかったと考えている」 と主張しました。しかし、労働基準法や民法の規定について説明したところ、理解が得られ、給与全額が支払われて解決しました。
外国人労働者であったとしても、当然労働基準法や民法は適用されます。
相談者は、飲食店のアルバイトとして、時給 1,000 円の約束で働きはじめました。
1ヶ月後に、日本語学校の春季休暇に帰国するために退職を店長に願い出たところ、経営者の判断により、退職は認められましたが、最後に支払われた賃金が時給 739 円 (最低賃金)まで引き下げられました。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「外国人労働者の雇用をめぐる相談事例」
雇用側は、気軽に離職する外国人労働者が多いことから、このような措置を取ったと主張。
しかし、労働条件の一方的な引き下げ(不利益変更)はできず、全額支払う必要があります。トラブルを防ぐためには、契約時に退職手続きの内容や規定を説明しなければなりません。
また、労働者が契約途中で辞職・転職・帰国することになったとしても、労働基準法第16条で違約金や損害賠償を支払う契約は禁止されています。これらの金銭を支払えない労働者が、強制的に働き続けなければならなくなる事態を防ぐことが目的です。
ただし、現実に労働者の責任により生じた損害に対する賠償金まで禁止されているわけではありません。
外国人のみの職場(雇用者のみ日本人)で、調理場の料理長と従業員がささいなことから喧嘩し、従業員が怪我をした事例です。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「外国人労働者の雇用をめぐる相談事例」
お互いの母国の言語や風習の違いが原因ではなく、外国人労働者のたび重なる遅刻が、料理長の神経を逆撫でしたとされる事例です。料理長も調理場の従業員も、母国語と初歩的な日本語しか使えませんでした。
調理場の従業員が職場復帰を望んでいなかったことから、怪我の治療費を会社が負担すること、解雇予告手当相当額を会社が支払うことにより事態を収拾し、双方が合意しました。
今回の事例では「従業員のたび重なる遅刻」が喧嘩の原因ですが、さまざまな国籍の人(日本人も含む)を雇用すると、お互いの風習や宗教などの違いから、喧嘩に発展する可能性が考えられます。
普段からお互いの国の文化や風習を尊重し、多様性を認める職場の雰囲気作りを行いましょう。
日本語が片言しか使えない外国人労働者にとって、トラブル時の相談窓口の情報がわかりやすく提供されていることも重要です。
雇用者は、外国人労働者には言語や知識などさまざまなハンデがあることを理解する必要があります。日本人と同じ感覚で接すると、思わぬトラブルにつながるかもしれません。
以下では、雇用者側のトラブルの原因を3つ解説します。
日本人には一般的でわかりやすい内容でも、国籍や文化が異なる外国人労働者には理解しにくいことが多いです。
全ての説明は、外国人が理解できる言語や、厚生労働省が提供する外国人労働者向けモデル労働条件通知書(令和6年3月時点で13ヵ国に対応)などで行う必要があります。
後でトラブルにならないよう、就労条件を書面化することをおすすめします。
外国人労働者は、言語も風習も異なる日本での生活に不安を感じていることが多いです。
外国人労働者の日本語能力不足のせいにせず、日本人が外国人に歩み寄る形でコミュニケーションをとれば、意思疎通が図りやすくなります。
たとえば、以下の項目に留意して話すことで、ミスコミュニケーションを防ぎやすくなります。
母国語でのマニュアルや就業規則、相談窓口を用意するほか、外国人労働者が安心して働ける職場の雰囲気作りも重要です。
簡単な言葉やボディランゲージ(肉体の動作を利用したコミュニケーション方法)で、積極的にコミュニケーションを取ることで、外国人労働者は早く職場に馴染めるでしょう。また、早期離職の抑制にも期待できます。
雇用者の労働法・制度に関する知識不足による外国人労働者とのトラブルも多いです。
厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」で、労働者の国籍を理由とする基本給や賞与、労働時間などの不合理な待遇や差別的取扱いは禁止されています。
次に、外国人材側のトラブルの原因を解説します。
外国人労働者が、契約途中に辞職・転職することで、トラブルに発展する場合があります。
外国人労働者は、母国にいる家族のために出稼ぎに来るケースもあり、少しでも条件の良い会社で働きたいと考えていることが主な原因です。
外国人労働者には、契約途中でも退職できる自由があります。ただし、就業規則で定められている退職に関する内容や手続きには従わなければなりません。
また、外国人労働者も日本人と同様に、退職する際に請求すれば退職から7日以内に賃金の支払いを受けられ、労働者の権利に基づく積立金、保証金、貯金なども返してもらえます。
外国人労働者は、日本語や日本の労働法に関する知識が少ないケースが多く、コミュニケーション不足から不安感や孤立感を覚える場合もあります。
外国人本人の学習や日本の生活習慣に慣れる努力も必要ですが、雇用者である企業も、易しい日本語や外国人の母国語で、日本語や日本の法制度、労働慣習に関する説明を行う必要があります。
日本の文化を一方的に押し付けるのではなく、外国人の母国の文化を尊重する姿勢も重要です。
不法就労は法律で禁止されており、不法就労した外国人本人だけでなく、雇用者も罰則の対象となります。
外国人を不法就労させたり、外国人に不法就労を斡旋したりした事業主は、「不法就労助長罪」により3年以下の懲役または300 万円以下の罰金が科されるため、注意が必要です。
雇用者が「不法就労助長罪」に問われるのは、主に以下の3つのケースです。
言語や文化の違い、コミュニケーションの難しさから、外国人雇用に不安を感じる採用担当者様も多いのではないでしょうか?
事前に外国人雇用を成功させるポイントを押さえることで、トラブルを未然に防ぎ、トラブルが起きても早期に解決できます。
外国人雇用を円滑に進めるためのポイントは、以下の3つです。
以下で、それぞれのポイントを詳しく解説します。
外国人労働者の多くは、職務に対する評価システムが不明瞭で昇進が遅いと感じています。優秀な外国人労働者を雇用し、自社の生産性を上げるためにも、職務内容の明確化と公正な評価は必須といえるでしょう。
また、日本語が不得意な外国人の誤解を生まないよう、評価内容を母国語でわかりやすく説明したり、母国語の書面を見せたりするなど、伝え方にも工夫しましょう。
ミスマッチによる早期離職を防ぐために、募集・採用時に求める人物像を明確にすることも重要です。
職場のコミュニケーションを向上させる方法として、外国人労働者の日本語力向上だけでなく、日本人の語学力向上も有効な手段です。
日本人からも外国人に歩み寄ることで、ボーダーレスな職場環境を目指しましょう。外国人の母国の宗教や文化を学び、尊重する姿勢も重要です。
日本で新たに働く外国人労働者は、日本人には簡単な手続きも難解に感じる場合があります。
日本人が行政手続き、住居手続き、銀行口座の開設手続きに同行するなど、外国人が安心して生活できるまで、積極的にサポートしましょう。
外国人労働者のトラブルは、言語や習慣、考え方、労働慣習の違いなどが主な原因です。
雇用者側の大きな原因として「説明不足」が挙げられるため、契約時の説明のほか、日本語や日本の法制度、労働慣習に関する説明を行う機会も設けましょう。また、外国人の母国語で話したり書面に残したりするなど、わかりやすい説明に努めてください。
外国人労働者が日本語能力を高めるだけでなく、日本人も語学力や異文化への理解を高めるなど、日本人から外国人に歩み寄る姿勢も重要です。外国人が働きやすい職場作りを意識することで、トラブルを未然に防げるでしょう。
とはいえ、外国人労働者の採用を検討する上で二の足を踏んでしまう採用担当者様もいらっしゃるかもしれません。
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