技能実習制度を利用し、専門的な知識やスキルを習得するため日本で就労する外国人を技能実習生といいます。
現行の制度は、技能実習生の人権を侵害する諸問題が確認されており、政府は新制度「育成就労」の創設を発表しました。
育成就労制度では「外国人の人権保護」「外国人のキャリアアップ」「安全安心・共生社会」の3点に重点を置き、技能実習制度での問題を是正するための改正がなされる予定です。
本記事では、技能実習と育成就労制度の概要を解説します。
専門的な技能を習得するため外国人が日本で就労する技能実習制度を、「育成就労」と呼ばれる新制度に移行することが2024年6月14日に国会で可決しました。これをもって、遅くとも2027年6月までには施行されることとなります。育成就労制度では現行の技能実習制度で確認されている問題が見直され、主に以下の改正点が盛り込まれています。
技能実習は、開発途上国への技術移転を通じて国際協力を行う目的で創設された制度です。技能実習制度を利用し、日本での就労を通じて知識や技術を得る外国人を技能実習生といいます。
技能実習生は、日本で獲得したスキルを自国に持ち帰って活用します。在留期間は最長5年までです。
法務省の公表するデータによると、令和5年末時点での技能実習生の人数は404,556人で、技能実習は永住者の891,569人に次いで二番目に多い在留資格です。
職種別では建設関係が最も多く21.9%を占めます。次いで多いのが食品製造関係の19.0%と、機械・金属関係の14.4%です。(職種の構成比のみ令和4年度の実績)
国籍別では51.8%のベトナムが最多で、二位はインドネシアで16.3%、三位はフィリピンで8.9%です。
現行制度で技能実習生の受け入れが可能な分野は以下のとおりです。
育成就労制度では対象分野の変更が予定されています。新制度での分野の詳細は後述します。
技能実習生の受け入れは「企業単独型」か「団体監理型」いずれかの方法によります。
企業単独型は、海外の現地法人や合弁企業・取引先の従業員を受け入れる方式です。
団体監理型は、非営利の「監理団体」が技能実習生を受け入れ、傘下の事業者が「実習実施者」と呼ばれる実際の就労先となる方式です。法務省の公表する令和5年末時点のデータによると、団体監理型が全体の98.3%を占めます。
団体監理型で受け入れる場合、まずは監理団体と契約し、採用活動を行ってください。
採用決定後に技能実習計画認定申請を外国人技能実習機構に行い、認定されたら在留資格認定証明書交付申請を出入国在留管理庁へ行います。
在留資格認定証明書が発行されたら本人が自国でビザ(査証)を申請し、申請内容に問題がなくビザが下りれば来日が可能になります。
技能実習生の失踪数は、最多の在留資格「短期滞在」に次いで多く、社会問題となっています。育成就労制度新設の背景にある技能実習生問題を解説します。
技能実習制度の本来の目的は発展途上地域へ技術移転を図る国際貢献であり、技能実習生は人手不足を補うための人材ではありません。
技能実習生を受け入れる事業者は、就労を通じて専門的な知識・スキルを習得させなければなりません。
しかし実態として、技能習得のための労働ではなく、単純労働力とみなして必要な実習を行わない事業者の例が存在します。
外国人労働者に対する人権侵害が発生するケースが確認されています。
外国人である旨を理由に不当な扱いをしてはならず、人権を侵害する行為は認められるものではありません。
海外で技能実習生の採用活動を行い、日本に送り出す機関を「送出機関」といいます。
必要以上に高額な手数料を徴収して不当な利益を得る悪質な送出機関があり、技能実習生が多額の借金を背負って来日する点が問題となっています。
送出機関は技能実習生に対して必要な教育や支援を行わなければなりませんが、支援の質が低い・本来の役割を果たしていないなどのケースも存在します。
技能実習生問題が深刻化している原因のひとつに、外国人本人の希望による転職が制限される点が挙げられます。
技能実習制度では、技能実習生は原則として自分の意思で別の事業所に転職ができません。転職制限があるため技能実習生の立場が弱くなりやすく、事業者・送出機関の悪質な制度利用の要因となっています。
育成就労制度は、改正が進めば2027年までに施行される見通しです。
日本人と外国人がお互いを尊重し合い、安定した労働・生活のための「外国人の人権保護」「外国人のキャリアアップ」「安全安心・共生社会」の3点が軸となります。
名称変更にともなう制度の主な変更点を解説します。
育成就労制度の対象は、特定技能制度上の特定産業分野に限定される予定です。現行の技能実習制度の分野の範囲とは異なります。
特定技能は在留資格の一種で、1号と2号に分類され、技能の水準が異なります。人手不足が特に深刻な状況にある産業分野の人材確保を、国が支援する目的で創設された制度です。
特定技能の対象分野は以下のとおりです。
上記分野のうち自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野は、2024年に新しく追加されました。
新制度では、従事できる業務の範囲も特定技能と同一になる見込みです。
なお、育成就労制度への移行前に実習を開始した技能実習生には、主に在留期間の面で必要な経過措置が検討されています。
技能実習制度では原則認められていない本人都合の転職が、育成就労では条件次第で可能になります。
やむを得ない事情がなければ同一事業所での就労が望ましいとする方針は継続しつつ、以下の条件を満たす場合は本人の意向による転職が認められるようになります。
出典:出入国在留管理庁「特定技能制度及び育成就労制度について」
現行の技能実習制度において、介護職種を除き日本語能力の要件はありませんが、育成就労制度では日本語能力の基準が新たに設定されます。
具体的には、日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5相当)に合格するか、同等水準の日本語講習を認定日本語教育機関で受講しなければなりません。
制度全体の目的として、人材確保の観点が追加されます。
育成就労修了時に在留資格「特定技能」へスムーズに移行できるよう、就労を通じて特定技能1号水準の技能を習得させる育成が必要になります。また、日本語教育に積極的に取り組む受け入れ機関にはインセンティブが設けられる予定です。
特定技能1号の在留期間は最長5年です。より高い技能や実務経験を経て2号の資格を取得すると在留期間は無期限となり、企業への定着が期待できます。
育成就労制度の新設により、現行の技能実習制度や特定技能制度の利用者が混乱する可能性があります。
混乱による不利益や悪影響を受ける人が出ないよう、企業内で配慮が求められるでしょう。
また、転職制限の緩和により、要件を満たせば外国人本人の意思による転職が認められるようになります。企業にとっては、人材が定着しないリスクが想定されます。
離職を防止するため、必要な支援を適切に行うなどのサポートを積極的に行い、外国人にとって居心地の良い職場環境を整備しましょう。
技能実習制度が育成就労制度へ移行される背景には、技能実習生に関する諸問題を是正する目的が考えられます。
育成就労制度では、転職制限が緩和されるほか、受け入れ分野や従事できる業務の範囲が「特定技能」と同一の内容になる予定です。
制度を利用するための要件として外国人本人の日本語能力も追加されます。
また、まだ正式決定にはなっていませんが、候補者が母国で送り出し機関に支払っている費用を受入れ企業が負担しなければならないルールの追加が議論がされており、ルール化される可能性が高い見通しです。
これにより、受入企業側としても候補者の支払っている費用に対する関心が上がることが予想されます。国毎に候補者から徴収してよいとされる費用の違いやルールの是正、送り出し相手国・機関の法令順守に対する確認等の積極的な関与だけでなく、送り出し国・機関の選定等にも大きな影響を与えることでしょう。
育成就労の修了時に想定される技能水準は特定技能1号と同程度になるため、特定技能への移行がよりスムーズになります。育成就労で外国人を受け入れる事業所には、特定技能1号を取得できるレベルの育成が求められます。
育成就労制度が開始されるまでに受け入れた技能実習生には、主に在留期間の条件で経過措置が講じられる見込みですが、2030年には完全に廃止になる見通しです。
アデコでは特定技能外国人材の紹介や受け入れ後のサポートを行っておりますので、ぜひご活用ください。